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M&A会計 実践編 第5回 無形資産とのれんの会計処理と開示(1)

事例:PPAにおける無形資産の識別と測定

連載「M&A会計の解説」の続編となる「実践編」では、M&A会計のポイントを、事例を挙げてより実践的な内容でお届けします。第5回目の今回は、企業結合(M&A)においてのれんから分離して認識する無形資産の会計処理についてQ&A形式でわかりやすく解説します。

M&Aにおける無形資産の識別と会計処理について、事例を挙げQ&A形式でまとめました。

無形資産の識別とのれん

Q:第三者間でのM&Aは、原則として「取得」となり、取得企業は被取得企業の資産・負債の受け入れについてパーチェス法を適用します。パーチェス法の適用に当たり、どのような資産・負債を識別し、それにいくらの時価を付けるのか、とりわけ無形資産の認識についてはPPA(パーチェス・プライス・アロケーション)の実務上、とても重要な論点になります。そこで今号では、M&A時の無形資産に関する会計ルールを取り上げ、次号では無形資産の評価実務や具体的な開示例(償却年数を含む)を取り上げたいと思います。まず、無形資産の認識の有無は、M&Aの会計処理にどのような影響を与えるのでしょうか。

項目

金額

議決権比率

企業結合日直前に保有していた被取得企業株式の企業結合日の時価

1,500億円

(40%)

追加取得に伴い支出した現金預金

800億円

(11%)

合  計

2,300億円

(51%)

 

項目

金額

議決権比率

企業結合日直前に保有していた被取得企業株式の企業結合日の時価

1,500億円

(40%)

追加取得に伴い支出した現金預金

800億円

(11%)

合  計

2,300億円

(51%)

 

項目

金額

議決権比率

企業結合日直前に保有していた被取得企業株式の企業結合日の時価

1,500億円

(40%)

追加取得に伴い支出した現金預金

800億円

(11%)

合  計

2,300億円

(51%)

 

項目

金額

議決権比率

企業結合日直前に保有していた被取得企業株式の企業結合日の時価

1,500億円

(40%)

追加取得に伴い支出した現金預金

800億円

(11%)

合  計

2,300億円

(51%)

 
無形資産の認識の有無がM&Aの会計処理に与える影響

A(会計士):ある会社を現金1,000で買収し、無形資産を認識する前の資産・負債の正味の時価が600だとします。のれんは差額で算定されますので、仮に無形資産を認識しなければ、のれんは400となります(ケース1)。そして、もし、無形資産を200認識すれば、のれんは200になります(ケース2)。このように、無形資産を認識すれば、それだけのれんが小さくなり、認識しなければ、のれんが大きくなるという関係になります。

Q:のれんも無形資産もB/S上、無形固定資産の部に計上され、その償却費はP/L上、営業費用に計上されます。そうであれば、わざわざ専門会社に報酬を支払ってまで無形資産を認識する積極的な意義はあまりないようにも思いますが、いかがでしょうか。

A(会計士):いや、そうではありません。M&Aは対象会社に何らかの価値を見出し、それを獲得するために行われているはずです。最近では企業価値の重要な部分を無形資産が占めており、M&Aにより獲得したその価値(有形・無形資産)を財務諸表に反映させ、投資家などに適切に開示することは極めて大切なことです。また、一般にのれんと無形資産の償却期間は異なります。
例えば、先ほどの例で、のれんの償却期間は20年、無形資産の償却期間は10年であれば、ケース1の年間償却費は20(=400/20年)、ケース2は30(=200/10年+200/20年)と大きな差異となります。

なお、会計上は無形資産に取得原価を配分し、税務上は適格組織再編に該当する場合(税務上の無形資産の帳簿価額はゼロ)、無形資産への配分額が将来加算一時差異となり繰延税金負債の認識が必要になりますので(結果としてのれんの金額にも影響)、この点についても留意が必要です。
 

無形資産の開示ルール

Q:M&Aが行われた場合の無形資産の開示ルールはどのようになっていますか。

A(会計士):企業結合会計基準第49項では、「取得原価の配分に関する事項」の項目として、「取得原価の大部分がのれん以外の無形資産に配分された場合には、のれん以外の無形資産に配分された金額及びその主要な種類別の内訳並びに全体及び主要な種類別の加重平均償却期間」の開示を求めています。また、無形資産に識別及び測定には数カ月単位で時間がかかることもあり、暫定的な会計処理の注記(取得原価の配分が完了していない場合は、その旨及びその理由)も関連することがあります。さらに、「企業結合の概要」に記載する「企業結合を行った主な理由」の記載も大切になります。なぜなら、「企業結合を行った主な理由」で、被取得企業の顧客基盤、技術、ブランドの取得といった目的をもって実行されたと記載すれば、認識される無形資産に特許権などの技術関係の無形資産、顧客関係の無形資産を識別すべき場合が多いと考えられるからです。このように無形資産の識別にあたっては、財務諸表利用者への説明内容との整合性にも留意する必要があります。

Q:ただいま技術関係とか顧客関係の無形資産というお話がありましたが、具体的にどのような無形資産があるのかを、無形資産の認識に関する会計ルールとあわせて説明をして下さい。

A(会計士):これまでの実務を見ていますと、代表的な無形資産としては、以下の四つに分類できると思います。

このうち、(1)と(2)は被取得企業の業種を問わず、幅広く認識される傾向にあります。また、製造業では技術に基づく無形資産が認識されるケースも多くあります。逆にいえば相応のブランド力がある(1)、一定の顧客基盤(顧客網や顧客リスト)を有している(2)、技術力(特許権など)がある(3)、経済的に優位な契約がある(4)、といった企業が買収対象になるとも言えます。この点に関するより具体的な無形資産の説明や開示例は次号で取り上げたいと思います。
 

無形資産の会計処理ルール

Q:M&A時の無形資産に関する会計処理ルールはいかがでしょうか。

A(会計士):日本では無形資産に関する包括的な会計ルールは無いのですが、企業結合会計基準で、企業結合時における取扱いを定めています。具体的には、取得企業が被取得企業から「受け入れた資産に法律上の権利など分離して譲渡可能な無形資産が含まれる場合には、当該無形資産は識別可能なものとして取り扱う。」(第29項)とし、「例えば、当該無形資産を受け入れることが企業結合の目的のひとつとされていた場合など、その無形資産が企業結合における対価計算の基礎に含められていたような場合には、当該無形資産を計上することとなる。」と定めています(第100項) 。したがって、企業買収の目的のひとつとして、被取得企業のある無形資産の価値に着目し、それを踏まえて買収価格を算定しているような場合には、無形資産を認識することになると思います。なお、「分離して譲渡可能な無形資産」とは、「受け入れた資産を譲渡する意思が取得企業にあるか否かにかかわらず、企業又は事業と独立して売買可能なもの」(適用指針第59項)とされています。

Q:日本ではM&A時に無形資産を認識するケースは、以前は少なかったと聞きますが、最近はどのような感じでしょうか。

A(会計士):平成20年改正前の企業結合会計基準では、「取得した資産に法律上の権利又は分離して譲渡可能な無形資産が含まれる場合には、取得原価を当該無形資産等に配分することができる。」とされていました。この「できる」という定めが、無形資産を認識するかどうかは取得企業の任意と解釈されたこともあり、無形資産を認識する事例はそれほど多くありませんでした。ただ、平成20年改正以後は、上記のように対価の算定基礎に含まれるような重要な無形資産を認識する事例が増えています。

 

国際会計基準との比較

Q:M&A時の無形資産に関するルールは、国際会計基準と比べていかがでしょうか。

A(会計士):日本基準における識別可能性に関する表現と国際会計基準(IAS38号「無形資産」)のそれとはおおむね一致していると解釈することもできると思います。しかし、日本ではIAS38号のような包括的な無形資産に関する会計基準が無く、さらにのれんも償却されることもあるため、実務で運用する際に無形資産の識別が国際会計基準を適用している会社ほどは徹底されていないように思います(国際会計基準では、無形資産は耐用年数を確定できない場合を除き償却されるので、非償却となるのれんと原則として償却される無形資産の識別はとても重要になる。なお、耐用年数が確定できない無形資産は非償却となるが、毎期減損テストを実施する必要があるなど、価値の棄損がないかは日本基準にはないチェックを毎期受けることになる)。知的財産の重要性が強調される最近の状況を踏まえると、のれんの償却・非償却にかかわらず、日本でも、IAS38号のような包括的な無形資産における会計基準の開発は必要ではないかと感じます。

Q:ありがとうございました。次回は無形資産の償却年数を含むより具体的な開示例について、伺いたいと思います。

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1 企業会計基準委員会(ASBJ)が平成25 年6 月28 日に公表した「無形資産に関する検討経過の取りまとめ」によれば、「無形資産が企業結合における対価計算の基礎に含められていたような場合には、当該無形資産を計上する」(企業結合会計基準100項)との規定は、「平成20 年の企業結合会計基準等の改正において、識別可能なものであれば企業結合における対価計算の基礎に含められていなかった無形資産であっても資産計上が求められることとなり、財務諸表作成者に過度の負担を強いるおそれがあるのではないかという意見に配慮したもの」(40項)とされている。
2 平成20年改正の企業結合会計基準では、「受け入れた資産に法律上の権利など分離して譲渡可能な無形資産が含まれる場合には、当該無形資産は識別可能なものとして取り扱う。」(企業結合会計基準29項)とされ、「できる」規定は廃止された。この点に関するASBJの担当者の解説では、平成20年改正では、平成20 年までの国際会計基準審議会(IASB)との短期コンバージェンス・プロジェクトとして掲げた企業結合に関する会計処理(持分プーリング法による会計処理の廃止のほか企業結合により受け入れた研究開発の途中段階の成果について資産計上を求める改正などが含まれている。)の見直しを行っているが、研究開発の途中段階の成果について資産計上を求める以上、識別可能要件を満たしている無形資産についても、その計上に選択肢を残すべきではないと判断された、とされている。
他方で、「法律上の権利」に該当すれば、直ちに識別可能な無形資産として個別に識別して会計処理することが求められると、個別に識別すべき無形資産の範囲が平成20年改正前の実務に比べ著しく広がる可能性があったため、平成20年改正企業結合会計基準では、無形資産の識別可能性の判断要件を「法律上の権利など分離して譲渡可能」な場合とし、「法律上の権利」に該当するかどうかという形式的な判断のみによらず、実質的に分離して譲渡可能かどうかによって判断することとされた。この点に関するASBJの担当者の解説では、平成20年改正は、基本的に上記の短期コンバージェンス・プロジェクトとして掲げた項目に限定した改正であり、研究開発の途中段階の成果に関する項目以外の無形資産会計全体の見直しを行うこと(実務を大きく変えること)は意図されていなかった、とされている。

会計上のポイント

  • 企業買収の目的のひとつとして、被取得企業のある無形資産の価値に着目し、それを踏まえて買収価格を算定しているような場合には、無形資産を認識することになる。
  • 重要な無形資産が認識された場合、M&Aに関する注記の中で、「無形資産に配分された金額及びその主要な種類別の内訳並びに全体及び主要な種類別の加重平均償却期間」など一定の事項の注記が求められる。また、「企業結合を行った主な理由」と認識される無形資産との関係にも留意が必要である。
  • 識別された無形資産は、それぞれ適切な償却期間の設定が必要になる。この償却期間は、のれんの償却期間(最長で20年)とは別に定められるため、償却期間の影響にも留意する必要がある。

 

執筆者

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
M&A会計実務研究会 萩谷和睦 森山太郎

(2017.7.24)
※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。

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