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M&A会計 実践編 第7回 のれんの分割

事例:企業結合時ののれんの分割

連載「M&A会計の解説」の続編となる「実践編」では、M&A会計のポイントを、事例を挙げてより実践的な内容でお届けします。第7回は、取得の会計処理で発生したのれんの分割に関する留意点、開示についてQ&A形式でわかりやすく解説します。

M&Aにおける企業結合時ののれんの分割について、事例を挙げQ&A形式でまとめました。

企業結合全体の会計処理-のれんは業績報告が行われる単位に分割する

Q:P社はA、B、C事業を営むS社を270で買収し、各事業に属する資産・負債の時価210との差額60をのれんとして計上するものとします(図表1参照)。企業結合全体の会計処理は、これで良いでしょうか。
 

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A(会計士):はい。ただし、事例のように、取得した事業の単位がA、B、Cなど複数ある場合には、のれんの帳簿価額を取得の対価が概ね独立して決定され、かつ、取得後も業績報告が行われる単位に分割する必要があります(固定資産の減損に係る会計基準、以下「減損会計基準」、 二 8、(注9))。のれんの帳簿価額の分割は、取得した事業の取得時における時価の比率や、取得した事業の取得時における時価と当該事業の純資産(資産総額と負債総額の差額)の時価との差額の比率により行う方法などがあります(減損会計基準 注解(注10)、適用指針51項(2))。図表2のように、A、B、Cの各事業の取得の対価(取得した事業の時価)が120、90、60と算定されれば、各事業に帰属する資産・負債の時価との差額により、のれんは各事業単位に分割できます。いずれにせよ、のれんの総額60は決まっていますので、これを各事業にどのように配分するかという問題です。実務上、事業の時価が厳密に算定されていない場合もあるかもしれませんが、このような時にはのれんの本質が超過収益力であることを踏まえ、将来の利益やキャッシュ・フロー、その計画の基礎となる過去の利益等に基づき、合理的と思われる方法でのれんを各事業に配分しているのではないかと思います。
 

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Q:なぜのれんを事業単位に分割する必要があるのでしょうか。

A(会計士):のれんは差額で算定されるがゆえに、企業結合後の減損テストをしっかり行う必要があります。のれんを事業単位に紐づけないとのれんの減損テストも適切に行えません。
また、買収事業から得られる利益とそのコストであるのれんの償却額を適切に対応させることも大切です。図表3をご覧ください。

 

図表3:P社(取得企業)がS社(被取得企業)を吸収合併した場合のイメージ
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例えばP社はA事業を営むS社を吸収合併し、そのS社にはB事業とC事業を営む子会社があるとします(各社はすべて黒字)。S社の企業価値は子会社を含めたS社グループ全体で算定されますが、グループ全体ののれん60をS社(A事業)のみに帰属させたら、合併後のP社個別財務諸表でのれん償却額をすべて負担することになり、明らかに過度な負担となります。なお、P社の個別財務諸表上、S社から受け入れた資産・負債に時価を付すことになりますが、その際、S1社・S2社株式も時価評価の対象となります。子会社株式の時価評価は、B、C事業ののれん価値を考慮する必要があるため、のれんの分割と表裏一体の関係にあるといえますね。
このほか、事業区分を基礎としてセグメント情報が作成されますので、のれんの帳簿価額の分割はセグメント情報で開示されるのれん関連項目にも影響を与えることになります。

Q:少し具体的になりますが、P社はS社を買収した後、P社にとっては不要となるS社の一部を、速やかに第三者に譲渡したときは、その譲渡原価には買収時に発生したのれんの一部も含まれるのでしょうか。

A(会計士):不要な一部というのが土地などの資産であれば、のれんの分割はできませんが、それが事業(企業活動を行うために組織化され、有機的一体として機能する経営資源(事業分離等会計基準))に該当する場合には、のれんの一部を処分予定の事業に分割することはありえると思います。繰り返しとなる部分もありますが、減損会計適用指針131項では、「のれんの帳簿価額を分割し帰属させる事業の単位は、取得の対価が概ね独立して決定され、かつ、取得後も内部管理上独立した業績報告が行われる単位であり、通常、資産グループよりは大きいが、開示対象セグメントの基礎となる事業区分と同じか小さいこととなると考えられる」とされています。なお、取得時に受け入れた事業に時価を付しているわけですので、取得以後、短期間に売却するような場合には、通常、多額の処分損益が生じることはないと思います。

企業結合とセグメント情報との関係-のれんの未償却残高や償却額をセグメント別に開示

Q:それでは、次に企業結合と連結財務諸表の中のセグメント情報との関係について伺いたいと思います。

A(会計士):それでは、図表4のR社のセグメント情報を見てみましょう。セグメント情報は、経営者が経営資源の配分に関する意思決定を行い、その業績を評価するために、経営成績を定期的に検討している情報で、まさに経営者目線の情報です(マネジメント・アプローチ)。このような情報ですから、財務諸表利用者は、財務諸表本表のほか、このセグメント情報をとても重視しています。セグメント情報では、その事業に関する概要を説明のうえ、事業区分(報告セグメント)別に利益(利益計算に含まれる売上高、のれん償却額、減損損失を含む)や資産の額(のれんの未償却残高を含む)などを開示しなければなりません(セグメント情報等の開示に関する会計基準6項、17項から21項、34項)。

図表4:R社のセグメント情報等(要約して抜粋)

図表4:R社のセグメント情報等(要約して抜粋)
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Q:R社では3つの報告セグメントがあり、グループ全体の売上高は460億円、セグメント利益(営業利益)は48億円ありますが、利益のほとんどすべてをX事業で稼ぎ出していますね。

A(会計士):そうですね。セグメント資産を見ると、グループの資産総額は520億円のところ、X事業にはその半分の260億円、Y事業やZ事業にもそれぞれ146億円、110億円投資しています。したがって、R社はX事業のほか、まだ利益には結びついていませんが、Y事業やZ事業にもかなり力を入れて、周辺事業を強化しているのだと思います。

Q:のれんの未償却残高や償却額は、3つのセグメントすべてで計上されています。

A(会計士):報告セグメントで開示されるのれんは、先程の、業績報告が行われる単位に分割されたのれんの額を基礎に集計されています。R社では、すべてのセグメントでM&Aを実施し、事業を強化してきたのだと思います。

Q:セグメント情報を詳細に分析すると、事業別の損益や投資採算性、企業の戦略も見えてきそうですね。本日はありがとうございました。

会計上のポイント

  • 取得した事業の単位が複数ある場合には、のれんの帳簿価額を業績報告が行われる単位に分割する必要がある。
  • のれんを事業単位に適切に配分しないと、のれんの減損テストが適切に実施できず、のれんの償却負担が歪むことになり、セグメント情報にも影響を及ぼすことになる。
  • 財務諸表利用者が重視するセグメント情報には、セグメント別の利益や資産の額ほか、のれんの未償却残高、のれん償却額、減損損失などの情報が開示され、事業別に投資とその成果の状況が示される。

 

執筆者

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
M&A会計実務研究会 萩谷和睦 森山太郎

(2017.9.29)
※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。

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