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M&A会計 実践編 第9回 非支配株主との取引(持分の追加取得)

事例:企業結合後の子会社持分追加取得の会計処理・連結財務表への影響

連載「M&A会計の解説」の続編となる「実践編」では、M&A会計のポイントを、事例を挙げてより実践的な内容でお届けします。第9回は、支配を獲得済の子会社持分を非支配株主(注)から追加取得した場合の会計処理及び連結財務諸表への影響に関する留意点、開示をQ&A形式でわかりやすく解説します。

(注)非支配株主とは、子会社の資本のうち親会社に帰属しない部分を保有している株主のことで、平成25年の連結会計基準等の改正の前までは「少数株主」と呼ばれていた。

企業結合後の子会社持分追加取得の会計処理・連結財務表への影響について、事例を挙げQ&A形式でまとめました。

子会社株式の追加取得-資本取引として差額は資本剰余金の増減として会計処

Q:平成25年の連結会計基準等の改正により、親会社が子会社の株式保有比率を高める場合など支配が継続している中で持分を追加取得した場合は、減少する非支配株主 持分と追加投資額との差額をのれん(または負ののれん)として計上するのではなく、資本剰余金の増減として処理することとされました。例えば、連結上の簿価が80である非支配持分を、非支配株主から100で追加取得した場合の連結消去仕訳のイメージは図表1のとおりです。

 

図表1:子会社持分の追加取得に係る連結消去仕訳のイメージ
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なぜ、このような会計処理の改正があったのでしょうか。

A(会計士):国際会計基準や米国会計基準では、支配が継続している中での子会社に対する親会社の持分の変動は資本取引とされており、日本もそれに合わせた、ということになります。もともと日本でも、支配が継続している中での子会社に対する持分の増加でのれん(または負ののれん)が追加計上されることに対する違和感が指摘されていました。
図表2をご覧ください。
 

図表2:子会社B/Sと持分の追加取得との関係
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60%分だけが計上されますが、子会社の資産・負債は60%ではなく、支配獲得という事象を契機として、すべて連結B/Sに取り込まれます。次に40%分の追加取得取引ですが、これは親会社が子会社の他の株主(非支配株主)から持分を取得する取引です。連結グループを1つの経済的な単位と考えれば、親会社が非支配株主から持分を取得する取引は、いわば株主間の取引といえ、図表2のように純資産の内訳が変動したに過ぎません。換言すれば、株主間の取引により、子会社で新たな資産(のれん)が計上されること、そしてその償却を通して将来の損益に影響を与えることはおかしいのでは、という考えがあったのだと思います。

連結P/Lに対する影響-追加取得時に係るのれん(のれん償却額)は生じない

Q:子会社持分の追加取得により、連結F/Sにはどのような影響があるのかを伺います。まず連結P/Lにはどのような影響がありますか。

A(会計士):図表1の仕訳のように、改正前の会計基準では追加取得持分に係るのれんが資産に計上され、その後は20年以内の効果のおよぶ期間で償却される、すなわちP/Lに反映されることになります。例えば5年償却なら年間4(=20/5年)の費用負担が生じますね。他方、現行基準では差額は資本剰余金で処理されますので、損益に対する影響はありません。

Q:現行ルールによる連結P/Lのイメージを図表3により数字で確認したいと思います。子会社の当期純利益が100、60%取得時ののれんが100、償却期間が5年(年間償却額は20)とすれば、連結当期純利益は80になりますね。現行の連結P/Lでは、この純利益80を親会社帰属分と非支配株主帰属分に分けることになります。親会社に帰属する利益は、子会社に対する持分が60%のときは、100×60%=60からのれんの償却額20を控除した金額、つまり40になります。そして40%追加取得して100%子会社とした場合には、当期純利益の100%である100を取り込む一方、のれんの償却額は支配獲得時の60%のままの20で変動しないので、親会社帰属利益は80になるわけですね。改正前だと追加取得時にのれんが追加計上され、その償却額の負担をしていたと理解しています。

 

図表3:子会社の持分を追加取得したときの連結P/Lのイメージ
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A(会計士):確かにそのような結果となりますね。換言すれば、同じ100%子会社であっても、一括して100%取得した場合と段階取得した場合(例えば60%子会社とした後に40%を追加取得する場合)とでは、子会社で計上される利益が同じであっても、のれんの償却額が違うので、親会社に帰属する当期純利益も違う金額になるということです。後者の取引の場合には、追加取得を支配獲得時の取引と一体取引として扱うかどうかが論点になることがありますね。

連結B/Sに対する影響-追加取得時の差額は純資産の減少となる

Q:次に連結B/S面ではいかがですか。

A(会計士):図表1のように、改正前会計基準では、追加取得にかかる差額がのれん(資産)に計上されるので、連結純資産に与える影響はありませんが、現行ルールではその差額が資本剰余金のマイナスとして一時に処理されるので、特に連結純資産が大きくない会社にあっては留意する必要がありますね。
なお、税効果との関係ですが、改正前はのれんが追加計上されるため、追加取得時に一時差異が新たに発生することはありませんでしたが、現行ルールにおいて差額は資本剰余金として処理されるため、一時差異が生じることになります。通常、子会社株式に係る一時差異はスケジューリング不能ですので、将来減算一時差異が生じた場合には繰延税金資産を計上することは難しいと思います(もし、繰延税金資産が計上できる場合には、相手勘定は資本剰余金となる)。

全部のれん方式との関係-日本は購入のれんのみ資産計上される。

Q:図表2では、のれんは60%対応分だけが計上されるとのことでしたが、国際会計基準や米国会計基準で採用されている全部のれん方式との関係はいかがでしょうか。

A(会計士):日本は実際の取得持分に対応する部分に対してのれんを計上する購入のれん方式を採用していますが、国際的な会計基準では支配獲得時(60%取得時)に残りの40%持分に対するのれんの時価(公正価値)を算定し、それを非支配株主持分に含めて表示することになります(国際会計基準でも、日本と同様、購入のれん方式の選択が認められている)。
のれんは大まかにいえば、取得された会社の継続企業要素(企業結合以前から存在していた純資産を上回る価値)と取得会社の事業との結合により生まれるシナジー効果からなると思います。少なくとも前者は被取得企業(子会社)に紐づいた無形の価値であり、具体的に識別できる無形資産ではないとしても、のれんとして資産計上しても良いように思います。ただ、非支配株主持分に対応するのれんの計上は自己創出のれんに該当するとの意見や、支配獲得時に非支配株主持分の時価を算定することは容易ではないことなどから日本における会計ルールでは、全部のれん方式は認められていません。
もし、日本でも全部のれん方式が導入されたら、非支配株主持分にも40%対応ののれんが含まれるわけですから、上記の追加取得時の「差額」は小さい金額になりますね。
 

連結財務諸表における開示-非支配株主との取引として資本剰余金の増減額を注記

Q:最後に非支配株主との取引が行われた場合の注記はどのようになりますか。

A(会計士):企業結合会計基準では、企業結合関係の注記(共通支配下の取引等に係る注記事項)の中で、非支配株主との取引によって増加または減少した資本剰余金の主な変動要因および金額の記載を求めており、注記例は次のとおりです。

 

(企業結合等関係)
共通支配下の取引等
(子会社株式の追加取得)
1.取引の概要
・・・・・
(5)その他取引の概要に関する事項
当社グループと同社の協力関係をより強化し、事業協力を深めることが当社グループの企業価値向上につながると判断したため、同社の株式を40%追加取得し、当社の持分比率は100%となりました。

2.実施した会計処理の概要
「企業結合に関する会計基準」及び「企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針」に基づき、共通支配下の取引等のうち、非支配株主との取引として処理しております。

3.子会社株式の追加取得に関する事項
被取得企業の取得原価及び対価の種類ごとの内訳
取得の対価  現金及び預金   10,000百万円
取得原価              10,000百万円

4.非支配株主との取引に係る当社の持分変動に関する事項
(1)資本剰余金の主な変動要因
子会社株式の追加取得
(2)非支配株主との取引によって減少した資本剰余金の金額
2,000百万円

 

Q:本日はありがとうございました。

会計上のポイント

  • 支配獲得後の持分の追加取得時に生じる「差額」はのれん(または負ののれん)ではなく、資本剰余金の増減として処理する。
  • したがって追加取得に係るのれんの償却負担は生じないが、連結純資産が一時に減少することになる。
  • 完全支配子会社とする場合でも、一回で100%取得する場合と支配獲得後、複数回に分けて完全支配する場合とでは、連結F/Sの数値は異なることがある。
  • 資本剰余金の増減として処理される「差額」の金額は注記対象となる。

 

執筆者

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
M&A会計実務研究会 萩谷和睦 森山太郎

(2017.11.28)
※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。

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