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M&A会計 実践編 第6回 無形資産とのれんの会計処理と開示(2)

事例:無形資産の認識と評価(実務編)

連載「M&A会計の解説」の続編となる「実践編」では、M&A会計のポイントを、事例を挙げてより実践的な内容でお届けします。第6回は、実務上どのような無形資産が認識されているのか、その無形資産の評価方法を中心にQ&A形式でわかりやすく解説します。

M&Aにおける無形資産の認識とその評価について、事例を挙げQ&A形式でまとめました。

無形資産の認識

Q:先月は企業結合会計基準に基づく無形資産の会計処理を中心に質問しました。今月は、実務でどのような無形資産が認識されているか、そしてその無形資産の評価はどのように行われているのかを中心に伺いたいと思います。

A(会計士):それでは、次の表を見て下さい。これは2014年4月期から2015年3月期の有価証券報告書の注記で、無形資産の配分に関して記載のある41社の事例を集計したものです。この間の無形資産の計上事例を網羅しているわけではありませんが、最近の実務の傾向を表していると思います。また、私が2015年4月以降2017年3月期までの企業結合で無形資産を計上している事例を調査してみたところ、無形資産の計上事例は確実に増加傾向にあり、認識される無形資産の分類も同様の傾向にありました。

項目

金額

議決権比率

企業結合日直前に保有していた被取得企業株式の企業結合日の時価

1,500億円

(40%)

追加取得に伴い支出した現金預金

800億円

(11%)

合  計

2,300億円

(51%)

 

項目

金額

議決権比率

企業結合日直前に保有していた被取得企業株式の企業結合日の時価

1,500億円

(40%)

追加取得に伴い支出した現金預金

800億円

(11%)

合  計

2,300億円

(51%)

 

項目

金額

議決権比率

企業結合日直前に保有していた被取得企業株式の企業結合日の時価

1,500億円

(40%)

追加取得に伴い支出した現金預金

800億円

(11%)

合  計

2,300億円

(51%)

 

項目

金額

議決権比率

企業結合日直前に保有していた被取得企業株式の企業結合日の時価

1,500億円

(40%)

追加取得に伴い支出した現金預金

800億円

(11%)

合  計

2,300億円

(51%)

 

無形資産配分記載社一覧表(2014年度)

Q:これを見ると、IFRSまたは米国会計基準採用企業が10社ありますが、日本会計基準採用会社も31社あります。

A(会計士):はい。以前の日本会計基準では、無形資産をのれんから区分して認識するかどうかは任意とされていましたが、第5回でご説明したとおり現行の会計基準において、無形資産の取得が買収対価の算定基礎に含まれているような場合には、原則としてのれんから区分して認識することになるので、無形資産の認識事例はかなり増えます。

Q:無形資産の種類を見ると、業種に関わらず顧客関連(32社)、マーケティング関連(25社)が多く認識され、化学、医薬品、電気機器などの製造業で技術関連(14社)が認識されていますね。

A(会計士):認識される無形資産の内容は、買い手が何を目的に対象会社を買収したのかを表しているといえます。買い手は、対象会社の強い顧客基盤やブランド力、高い技術力に価値を認めて、その無形資産が将来のキャッシュフローに貢献すると期待しているのでしょう。
 

マーケティング関連

Q:もう少し具体的に内容をみたいと思います。例えば、マーケティング関連の無形資産の具体的な内容はいかがでしょうか。

A(会計士):マーケティング関連の無形資産には、商標・商号・ロゴなどが含まれ、一般に商標権などとして科目表示されています。上記事例の耐用年数をみると、主として5年から20年の範囲で広く分布していて、15年未満が半分、15年~20年が半分というイメージでしょうか。
 

顧客関連

Q:顧客関連の無形資産はいかがでしょうか。

A(会計士):顧客関連の無形資産には、顧客リスト・顧客との契約・顧客との関係(顧客との契約が無くても過去の取引において特定の顧客と継続して取引を行っている場合)などが含まれ、一般に顧客関係資産などとして科目表示されています。また、受注残高も顧客関連無形資産として計上される場合もあります。上記事例の耐用年数はその内容により5年未満から20年まで幅広く分布していますが、10年から15年とした事例が4割程度と多くの比率を占めています。20年としている例もありますが、全体の10%程度となっています。
 

技術関連

Q:技術関連の無形資産はいかがでしょうか。

A(会計士):技術関連の無形資産は特許として保護されている技術や製法などから構成されますが、必ずしも法律上の保護がなくても、識別されることはあります。特許権の保護期間は、法律上は20年とされていますが、技術革新の激しい現在では、陳腐化リスクを考慮することが必要になります。上記の事例でも、10年から15年の償却期間が多くなっています。

 

契約に基づく無形資産

Q:契約に基づく無形資産にはどのようなものが含まれるのでしょうか。

A(会計士):契約に基づく無形資産には、ライセンス契約、フランチャイズ契約、それから参入障壁が高い業種では許認可が無形資産として識別される場合もあります。

 

無形資産の評価方法

Q:これらの無形資産はどのように評価されるのでしょうか

A(会計士):無形資産の評価方法は、土地など他の資産の評価方法と同様、次の3つの方法があります。

インカム・アプローチ:
無形資産の価値をその無形資産によって将来生み出される経済的便益の現在価値の合計によって計算する方法

マーケット・アプローチ:
類似した無形資産の取引価格から評価対象の無形資産の価値を類推する方法

コスト・アプローチ:
買い手がその無形資産を複製する場合のコスト(複製原価)または再調達したと仮定して新たに発生するコスト(再調達原価)で価値を測定する方法

このうち、大半の無形資産に適用できるのは、インカム・アプローチとなります。その中でも超過収益法とロイヤルティ免除法は代表的な評価方法といえます。
 

超過収益法による評価

Q:それでは、まず超過収益法の概要を説明して下さい。

A(会計士):超過収益法は、企業または事業の利益から、評価対象無形資産以外から生み出される利益を控除することで、評価対象無形資産によりもたらされる利益だけを抽出し、その現在価値により時価を算定する方法です。無形資産は、通常会社が保有する有形資産や他の無形資産、運転資本と同時に使用されていますので、無形資産に帰属する利益を直接把握することは難しいですね。そこで、その無形資産が関係する部門の利益を集計し、それから無形資産と同時に使用されている資産の貢献利益を控除した残額を評価対象無形資産に帰属する利益とするわけです。

Q:無形資産と同時に使用されている資産の貢献利益はどのように算定するのですか。

A(会計士):会社が保有する資産には、運転資本は3%、有形資産(時価)は5%、評価対象以外の無形資産(時価)は8%など、それぞれ投資リスクを反映した期待利回りがあるはずですので、これを合計することにより関連資産の貢献利益を算定します。この貢献利益のことをキャピタルチャージといいます。

Q:おおまかにいえば、無形資産に関係する部門の利益からキャピタルチャージを控除した残額として評価対象の無形資産の利益部分を求め、それを現在価値に引き直して無形資産の価値を計算するのですね。ということは、ある無形資産が識別されても、その収益性が低く、キャピタルチャージを超える将来キャッシュフローが生み出されないと予想されるときはその無形資産の評価額は0 となるわけですね。

A(会計士):はい。そのようになります。

Q:例えば、顧客関連資産を超過収益法により評価するときは、どのような流れになるのでしょうか。

A(会計士):顧客関連資産の評価は、評価基準日に存在する既存顧客から生み出される将来の収益のみに基づいて行います。企業の利益計画は基準日後の新規顧客寄与分も含まれていますので、それを除外する必要があります。それから、既存顧客も時の経過とともに減少するものです。このため、過去3~5年の既存顧客に対する売上高等を加味して、顧客減少率を算定し、それを踏まえた利益を計算します。そしてその利益からキャピタルチャージを控除することになります。利益を生む期間が分かれば、無形資産の償却年数も算定できることになりますね。
 

ロイヤルティ免除法による評価

Q:次にロイヤルティ免除法の概要をお願いします。

A(会計士):ロイヤルティ免除法は、評価対象無形資産の所有者が、当該資産の使用を第三者より許可されたものと仮定した場合に、所有者が第三者に対して支払うであろうロイヤルティが免除されたものとして、ロイヤルティコスト削減効果を割引現在価値により時価を算定する方法です。例えば、商標権の評価に当たり、製品売上高に類似商標のライセンス供与の際に採用されるロイヤルティレートを使用し、当該商標が供与されたという前提をおいて支払いが想定されるロイヤルティコストを算定して評価することがあります。

Q:本日はありがとうございました。

会計上のポイント

  • 最近の企業結合の開示例では、日本の会計基準を採用する会社においても、のれんから区分して無形資産を認識する事例が増えており、被取得企業の無形資産の価値に着目した買収が行われているものと推察できる。
  • 認識される無形資産は、顧客関連、マーケティング関連の無形資産が業種を問わず認識されており、製造業では技術関連無形資産も多く認識されている。
  • 無形資産の耐用年数はその内容によりさまざまであるが、マーケティング関連無形資産(商標権)の一部を除き、のれんの最長償却期間である20年よりかなり短い期間となることが多い。

 

執筆者

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
M&A会計実務研究会 萩谷和睦 森山太郎

(2017.8.29)
※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。

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