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M&A会計 実践編 第8回 企業結合における暫定的な会計処理

事例:暫定的な会計処理に関する制度と確定処理

連載「M&A会計の解説」の続編となる「実践編」では、M&A会計のポイントを、事例を挙げてより実践的な内容でお届けします。第8回は、取得の会計処理における暫定的な会計処理に関する留意点、開示をQ&A形式でわかりやすく解説します。

企業結合における暫定的な会計処理に関する制度と確定処理について、事例を挙げQ&A形式でまとめました。

暫定的な会計処理 ―取得原価の配分は企業結合日後1年以内に確定する

Q:企業結合が「取得」とされた場合、被取得企業(買収対象企業)から受け入れる資産・負債には企業結合日の時価を付さなければなりません(企業結合会計基準28項)。この時価を付すべき資産には土地などの有形資産はもちろん、無形資産も含まれます。ただ、どのような無形資産をいくらで計上するのかを検討するのには時間がかかりますね。

A(会計士):はい。通常、取得企業は評価専門家と契約して、無形資産をはじめ、時価と簿価に重要な差異があると見込まれる資産・負債の時価を算定します。そして監査人も別の専門家を活用して、会社側が算定した評価結果をチェックして、最終的に取得企業のB/Sが確定するわけです。この一連の手続には数カ月程度かかることが一般的だと思います。このため、企業結合会計基準では、パーチェス法の手続である「取得原価の配分」は、企業結合日以後1年以内に完了すること、つまり企業結合日が4/1であれば、最大で翌年3/31の決算までの1年間の猶予を与えています。

Q:暫定的な会計処理に関する制度を具体的に教えて頂けますか。
A(会計士):会計基準では、次のような取扱いとなっています(企業結合会計基準49項(4)-3、49-2項、(注6))。

 

(1) 企業結合日以後の決算において、取得原価の配分が完了していなかった場合
→その時点で入手可能な合理的な情報等に基づき暫定的な会計処理を行い、その後追加的に入手した情報等に基づき配分額を確定させる。

また、暫定的な会計処理を行っている旨及び理由を注記する。

(2) 暫定的な会計処理の確定が企業結合年度の翌年度に行われた場合
→ 企業結合が行われた年度に当該確定が行われたかのように会計処理を行う。企業結合年度の翌年度の比較情報には、当該企業結合年度の財務諸表に暫定的な会計処理の確定による取得原価の配分額の見直しを反映させる。

また、取得原価の当初配分額に重要な見直しがなされた場合には、見直した年度において、その見直しの内容及び金額を注記する。

 

Q:最初に(1)についてですが、時価の算定が終わらない場合には、受け入れる資産・負債には被取得企業の帳簿価額とすることも認められますか。

A(会計士):結果として、そのようなこともありえるとは思いますが、「その時点で入手可能な合理的な情報」などに基づくわけですから、はじめから被取得企業の帳簿価額で良いということではありません。時間を含めさまざまな制約がある中で、その時点における合理的な情報とは何かを踏まえて対応する必要があります。時価評価を実施すべき資産には、無形資産のほか、被取得企業の帳簿価額と時価との差が大きくなると見込まれる土地、状況によっては有形固定資産や棚卸資産などがあります。また、それらの帳簿価額の変動による繰延税金資産・負債も考慮する必要があります。なお、取得原価の配分が完了してなければ、その旨・理由の注記を忘れないようにします。

Q:会計ルールでは暫定的な会計処理は、企業結合日後1年以内とされていますが、もし、3月決算の会社が、ある企業を2月28日に買収した場合、暫定的な会計処理が認められる期間はいつまでになりますか。翌年の3月31日までに確定開示すれば良いとした場合、結果として1年超(13か月)の暫定期間が認められてしまうように思うのですが。

A(会計士):暫定的な会計処理の期間は、あくまで翌年の2月末までであり、その開示が翌年3月末になったと考え、翌年3月末までに確定開示すればよいと考えます。逆に、第3四半期である12月末までに確定開示を求めると、暫定的な会計処理の期間が10カ月になってしまいますので。

Q:それからもう1点、もし、みなし取得日(支配獲得日が子会社の決算日以外の日である場合には、当該日の前後いずれかの決算日に支配獲得が行われたものとみなして処理することができる(連結会計基準(注5))を利用した場合はどのようになるのでしょうか。

A(会計士):会計ルールでは明記されていませんが、支配獲得日を前後いずれかの決算日とみなすことができるとされている以上、暫定的な会計処理の期間は、みなし取得日から起算して1年以内と考えて差し支えないと考えます。決算日には四半期決算を含むと解されますので、支配獲得日との差異の期間が重要になるということも考えられないと思います。

暫定的な会計処理の確定処理 ―企業結合年度のF/S(比較情報)に反映させ、見直し内容を注記する

Q:(2)については、3月決算の会社が、決算日3か月前の1/1に企業結合を行い、3/31までに資産・負債の時価評価が間に合わず、最終的に翌年度の9/30に確定したというような場合ですね。

A(会計士):そうですね。例えば、次のような注記があります。

 

平成28年3月期 有価証券報告書
取得による企業結合
(××グループの企業結合に係る暫定的な会計処理の確定)

平成27年1月1日に行われた××社 他5社との企業結合について前連結会計年度において暫定的な会計処理を行っておりましたが、当連結会計年度に確定しております。
この暫定的な会計処理の確定に伴い、取得原価の当初配分額に重要な見直しが反映されました。
この結果、暫定的に算定されたのれんの金額4,600百万円は、会計処理の確定により1,700百万円減少し、2,900百万円となり、5年で均等償却します。のれんの減少は、その他の無形固定資産が2,000百万円、繰延税金資産が800百万円、非支配株主持分が1,100百万円それぞれ増加したことによるものであります。

 

Q:平成28年3月期の有価証券報告書には、平成28年3月期の連結F/Sと比較情報として平成27年3月期の連結F/Sが記載されていますね。そして、企業結合が平成27年1月に実施されたため、前連結会計年度の平成27年3月期のときには取得原価の配分が間に合わず、平成28年3月期において、比較情報として記載される平成27年3月期の連結F/Sにその確定処理を反映させた、すなわち、普通なら比較情報は前期に公表済の連結F/Sを転記するだけですが、注記に記載された見直し額が、公表済の連結F/Sとは異なるわけですね。

A(会計士):はい。そのようになりますね。

Q:一つ疑問があります。このケースではある意味、昨年度の連結F/Sの数値を修正しているわけですから、訂正報告書の提出が必要になるのではないでしょうか。

A(会計士):それは必要ありません。昨年度の有報に記載された連結F/Sは、その時点で入手可能な合理的な情報などに基づき暫定的な会計処理を行っている限り、ルールに従っているわけで、F/Sは適正なものです。比較情報はあくまで当期の財務諸表の一部(比較情報として記載される前期の数値はあくまで当期の財務諸表を理解するための情報)であって、前期のF/Sを訂正したわけではありません。
同じようなケースとして、会計方針の変更が行われた場合の取扱いがあります。原則法では新たな会計方針が過去から適用されていたかのように処理します。その時もその影響額は当期のF/Sの一部である比較情報に反映させますが、公表済F/Sの原本を訂正することはしません。

 

下期に買収が行われた場合のJ-SOX対応 ―評価範囲から当該会社等を除外して内部統制の有効性を評価することができる

Q:会計処理そのものではありませんが、例えば、上場会社が決算日に近いタイミングで一定規模以上の会社(内部統制の評価対象とならない程度の規模の会社を除く。)を買収した場合(それまで内部統制に力を入れてこなかった非上場会社を買収した場合に論点となることが多い)、暫定的な会計処理に関する論点のほか、実務上いわゆるJ-SOXの評価が可能かどうか、という問題もありますね。

A(会計士):そのようなケースも想定して、財務報告に係る内部統制基準では、「評価範囲の制約」の「やむを得ない事情」として、内部統制の有効性に関する評価を実施できないことが財務報告の信頼性に重要な影響を及ぼすものではないと判断されるときは、経営者は当該部分を評価範囲から除外して評価結果を表明できるとされ、監査人も一定の場合には、無限定適正意見を表明できるとされています(内部統制報告制度に関するQ&A問64)。もっとも、除外した範囲の影響が会社全体としても重要である場合には、内部統制の評価結果は表明できないことになります。

前者の内部統制報告書の【評価結果に関する事項】の例としては、次のような注記があります。

 

【評価結果に関する事項】
上記の評価の結果、連結子会社である××社およびその連結子会社は、平成×年12月1日付けで現金を対価として持分を100%取得し、子会社となったものであり、持分の取得が会社の事業年度下期に行われたため、やむを得ない事情により財務報告に係る内部統制の一部の範囲について、十分な評価手続が実施できなかったが、当事業年度末日時点において、当社の財務報告に係る内部統制は有効であると判断した。

 

Q:本日はありがとうございました。

会計上のポイント

  • 「取得」の会計処理における取得原価の配分の期限
    企業結合日後1年以内に取得原価の配分(資産・負債の時価評価)を完了させる。
  • 暫定的な会計処理
    取得原価の配分が完了していない場合には、暫定的な会計処理(その時点で入手可能な合理的な情報等に基づき取得原価を配分)を行い、その旨・理由を注記する。
  • 暫定的な会計処理の確定が企業結合の翌年度になった場合
    企業結合が行われた年度に当該確定が行われたかのように会計処理を行う。企業結合年度の翌年度の比較情報には、当該企業結合年度の財務諸表に暫定的な会計処理の確定による取得原価の配分額の見直しを反映させ、その内容を注記する。

 

執筆者

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
M&A会計実務研究会 萩谷和睦 森山太郎

(2017.10.24)
※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。

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