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公営企業における経営課題(カネ)と解決手法

公営企業の経営戦略シリーズ(6)

人口減少下における公営企業の課題の一つとして、料金収入等の減少(カネの課題)が挙げられます。カネの課題には各団体の実情を踏まえた繰入金等の水準を決定し、適切な料金改定が必要です。 また、広域化等の抜本的改革の検討を行うことが重要です。

1.公営企業の経営課題

前回では、公営企業の経営課題のうち、ヒトの問題とモノの問題について解説しました。今回はカネの問題について解説します。

2.カネに関する経営課題

「経営戦略」策定にあたっては、計画期間内の収支均衡が求められています。「財源試算」にて財源の現状把握・分析、財源構成の検討、目標設定、財政計画の策定の各過程おいて、計画期間内の収支均衡を達成するうえで、以下の経営課題が考えられます。

 

(1)収入減少 

急激な人口減少等に伴い、サービス需要が大幅に減少し、収入が減少していくことが考えられます。例えば、水道事業においては人口減少と節水トレンドによる水需要の減少といった収益性の低下の可能性があります。

 

(2)起債依存度 

収入減少により必要な資金を確保する方法として企業債があります。しかし、企業債は基本的に料金収入を原資として償還するものであることから、人口減少に伴う料金収入の減少等が見込まれる中で、企業債にて資金を調達すると、将来世代に過重な負担を強いる可能性があります。

 

(3)繰入金 

足りない資金については、一般会計にて負担してもらう方法があります。しかし、一般会計負担分については、繰出基準を参考に適切に行うことが前提であり、基準外で繰出す際にはその妥当性が問われることから、必要な資金をいつでも潤沢に調達できるわけではありません。

 

(4)更新投資等への資金確保状況 

施設の老朽化に伴い更新需要は増大します。更新投資には財源が必要であることから、運転資金のみならず、将来の更新投資を見据えた資金確保が必要となります。

3.カネに関する経営課題の解決方法の例

カネに関する経営課題の解決方法としては、次のような施策が考えられます。 

  • 企業債水準の見直し 
  • 繰入金の整理 
  • 料金改定 
  • 補てん財源管理 
  • 抜本的な改革の検討


財政不足を解消するためには、企業債によって資金調達をする方法や繰入金を増額する方法があります。しかし、企業債は基本的に料金収入を原資として償還するものであることから、人口減少に伴う料金収入の減少等が見込まれる中で、将来世代に過重な負担を強いることがないよう、残高や毎年度の償還額等を踏まえて、企業債残高を一定金額以下にする、投資に対する起債の割合を決める、など適切な水準を定め、その水準に見直す必要があります。 

また、安易に収支均衡のために繰入金を増額することは適当ではなく、財政当局と調整した必要額を算出することが必要です。総務省の繰出基準を参考としつつ、各公営企業の実情に応じた公費負担の考え方を十分整理することが必要です。 

さらに、公営企業は、独立採算で経営を行うことを基本原則としています。このため、企業債や繰入金で賄う以外については、料金収入にて賄う方法があります。料金の見直しにあたっては、まず「経営・財政」および「事業・施設」の両面に関する重要指標や料金体系について類似団体等との比較や収益構造の分析といった現状分析を実施することで現行料金における課題を識別するとともに、投資の合理化や経営の効率化を進めてもなお財源が不足する場合には料金改定を検討することが必要です。

なお、単に現金があるというだけではその現金を4条予算の収支不足の財源に使用することはできません。補填財源不足にならないような財源構成を検討し、財源管理をする必要があります。

4.ヒト・モノ・カネ全体にかかる解決方法の例

前回と今回で見てきた経営課題と解決方法について、まずは各団体内部で検討を進めることになりますが、経営戦略の策定等を通して、公営企業が行っている事業の意義、事業としての持続可能性、経営形態等を検証し、事業廃止や民営化・民間譲渡、広域化、民間活用等、今後の方向性の検討を行うことも考えられます。 

特に、民間代替性の高い事業において、公営で行う必要性が乏しい場合は事業廃止、民営化・民間譲渡などの解決方法を検討することが重要です。      

また、水道・下水道のような地方公共団体が実施する事業において、各団体で十分な課題解決が進まない場合は、団体の枠組みを超えた広域化の取組や、包括的民間委託などの民間活用を検討することで、職員減少(ヒトの課題)、施設老朽化(モノの課題)、財源不足(カネの課題)に包括的に対応していくことが重要です。

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