Posted: 10 Feb. 2022 3 min. read

第一章 はじめに

【シリーズ】日本コングロマリット企業の未来へ向けて

日本製造業・ものづくりの衰退の危機感が高まっている。特にインフラ産業を中心としたコングロマリット企業(商品やサービスが異なる複数の事業を持つ企業)の地盤沈下が激しく、「サステナビリティ」や「デジタル化」に代表される競争環境の変化・社会変革の荒波の中で迷走しつつある。この連載では、日本コングロマリット企業を再生させるために、各エリアの専門家の視点から、様々なテーマを連載の形で掲載していきたい。

 

地盤沈下する日本コングロマリット企業

緩やかに日本製造業の衰退が始まっている。特にインフラ産業を中心としたコングロマリット企業(商品やサービスが異なる複数の事業を持つ企業)の地盤沈下が激しい。

過去、家電・半導体の製造業の韓国・中国へのシフトがおこった際に、インフラ設備や産業機械を中心とした日本製造業のものづくりの強さが高らかにうたわれた。だが、次第にインフラ設備や産業機械においても家電・半導体と同様に韓国・中国企業へのシフトが進みつつあり、また、少し前は背中が見えていた欧州企業は高収益体質を確立し、現在では視界に入らない程その差をつけられている。

そのものづくりの力そのものも、デジタル化の流れでモノ単体の価値が低減する中、目指す方向性を失い、新たに起きている社会変革の荒波の中で迷走しつつある。

 

地盤沈下の背景・理由

日本コングロマリット企業はなぜ地盤沈下を起こしてしまったのか。その根底にあるのは日本企業独特の組織文化に由来する。

  1. 楽観的な未来を期待する傾向。明らかにマーケットが衰退する産業であっても残存者利益を享受することを期待してしまい、大胆な方向転換を行うタイミングを逸してしまう。
  2. 先が曖昧で見えない状況に対し、自らチャレンジし産業構造そのものを変えていく気概を組織の中で潰してしまう傾向。海外でスタートアップ等に代表されるように技術面およびビジネスモデル面であらたな試行が繰り返されるのに対し、先行事例や前例の成否の材料集めに走り意思決定をなかなか行わない企業文化が日本には蔓延している。
  3. 諦めの早さ。日本企業には、初期段階で成果が出ないとすぐに失敗と決めつけてしまう傾向が強い。多くのイノベーションを実現した企業は、多くの失敗から学び、成功するまでやり続けた意思の強さを持っている。

上記3点に代表される日本企業独特の脆弱さが今迷走を招いている。

 

新たな競争環境の出現

迷走する日本コングロマリット企業が袋小路から抜け出すため、産業界という一段高い視座から製造業・ものづくりの今後の方向性を俯瞰的に捉えると、新たな競争の水平線が見えてくる。

1つ目は企業の価値を従来の収益性だけでなく社会的価値で捉え直す見方だ。最近毎日新聞や金融市場を賑わせている「サステナビリティ」の視点である。製品を製造しマーケットに届けるだけでは企業は許されなくなった。ものづくりのあり方や企業が生み出すCO2の量そのものを少なくする新たな社会産業システムの構築に貢献しなければ、企業が社会で継続的に存在し続ける価値がないと見なされてしまう。企業のあり方やパーパスを改めて問い直さなければならない。

2つ目は「デジタル化」の波である。GAFAに代表される新たな社会システムを作りだす企業の動きがインフラ設備や産業機械の業界にも変化を及ぼした。インダストリー4.0やスマートファクトリーといったものづくりのあり方を変えていく取り組みも然りである。グルーバルからはデジタルディスラプションといったデジタルをベースに既存事業を塗り替え、新たな付加価値を生み出す産業システムの構築をしかけてくる企業も出始めてきている。この競争世界の中で従来のハードや技術に拘った事業だけで生き残ることは難しくなってくる。

 

再生のための打ち手

前述のとおり、「サステナビリティ」や「デジタル化」により、社会や企業の経済活動の前提が大きく変容した競争環境の中で、日本コングロマリット企業が抱える3つの弱点を乗り越え、海外企業と差別化を図りながら、再生していくにはいかなる策をとれば良いのであろうか?

今大事なのは、我々の未来社会を想起し、その世界で貢献する企業像からバックキャストで企業変革を進めることである。コングロマリットと呼ばれるような異なった事業の集合体の企業体から、社会価値へと向かう新たな産業カテゴリーの中に事業を集中し直すことである。スマートインダストリアル、未来モビリティ、ヘルスケア、エナジートランジッション、スマートシティといった言葉で再定義される産業カテゴリーの中で、新たなエコシステムやコア技術で貢献する事業体を自ら描き、変革の糸口を掴むことからスタートしなければならない。

この連載では、日本コングロマリット企業を再生させるために、各エリアの専門家の視点からトピックを連載していきたい。再生に向けて、在りたい未来や成長市場を自ら描き、変革の糸口を掴むヒントを少しでも感じていただければ幸いである。

コングロマリットディスカウント(複数の事業を抱えた企業の一体価値が、各事業毎の価値を積み上げた合計よりも小さい状態。複合事業体であるがために資本市場から消極的に評価されてしまうこと)をどう乗り越えるのか?資本市場の中で、コングロマリットを解体し分社化し資本マーケットに対峙させる動きがあるなかで、本来何に気をつけるべきなのか?単純な分社化で意味があるのか?コングロマリットの構造をどう変えることにより競争力を増すことが可能になるのか?

サステナビリティといった社会的価値をどう位置付けるのか?また事業投資やポートフォリオをどう管理していくのか?

デジタル化の流れのなかで、企業はどう構えなければならないのか?スマートファクトリーにどう取り組めば製造業を復活させることができるのか?

 

幾つかのテーマを連載の形で掲載し、日本コングロマリットの再生に寄与していきたい。

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デロイト トーマツ グループはインダストリーに精通した経験豊富な専門家で編成するプロジェクトチームを有し、革新的かつ経済動向・経営環境に即した現実的な解決案の提案。企業の課題解決を支援します。

執筆者

鈴木 淳/Atsushi Suzuki

鈴木 淳/Atsushi Suzuki

デロイト トーマツ コンサルティング 執行役員

重電・重工業界、航空業界、産業機械業界の製造業および商社を中心に、サステナブルを見据えた事業戦略、DX戦略、オペレーション・IT改革、事業統合等、広範囲なコンサルティングサービスを手掛けている。 外資系コンサル、IT系コンサルを含めて長年業界リーダーとして活躍。 関連サービス ・産業機械・建設(ナレッジ・サービス一覧はこちら) >> オンラインフォームよりお問い合わせ