Posted: 24 Mar. 2022 3 min. read

第二章 コングロマリット・ディスカウントを乗り越える

【シリーズ】日本コングロマリット企業の未来へ向けて

日本製造業・ものづくりの衰退の危機感が高まっている。特にインフラ産業を中心としたコングロマリット企業(商品やサービスが異なる複数の事業を持つ企業)の地盤沈下が激しく、「サステナビリティ」や「デジタル化」に代表される競争環境の変化・社会変革の荒波の中で迷走しつつある。この連載では、日本コングロマリット企業を再生させるために、各エリアの専門家の視点から、様々なテーマを連載の形で掲載していきたい。

 

ジャパニーズ・ディスカウント

日本の製造業の衰退が始まり、地盤沈下を起こして来ている要因を前章では3つ述べた。

① 楽観的な未来を期待する傾向

② 先が曖昧で見えない状況に対し、自らチャレンジし産業構造そのものを変えていく気概を組織の中で潰してしまう傾向

③ 諦めの早さ
 

上記①と②を少し言い換えると

1:グローバル市場で急激に低下しているプレゼンス

2:楽観的なビジネス予測と過去の成功体験に基づく時代にそぐわない戦略思考

3:本質的な課題解決を後回しにしたが故の競争力の低減

となる。

 

上記1~3の課題がある日本企業が極めて多く、私はこの状態をジャパニーズ・ディスカウントの状態と定義している。(下図参照)

※クリックまたはタップして拡大表示する

 

どんな企業も最初は町工場レベルの単一事業から始める、そして複数事業に多角化展開するか、もしくは海外展開していくか、もしくはその両方か、多かれ少なかれ事業軸・地域軸どちらかからのコングロマリット展開が始まるのである。単一事業の会社といえども海外で多地域展開し、地域毎の経営を志向しているのであれば、ある意味で複数事業を営む企業と同様であると解釈し、それもコングロマリットの1つの状態であると広義に定義できる。

その拡大の中でグローバルもしくはグループレベルでの統制をかけず、馬なりの成長志向で場当たり的に拡大を目指していく先には必ずコングロマリット・ディスカウントが生じる。その際に企業は成長の踊り場を迎える。

その踊り場を内部成長での拡大の限界と捉え、買収戦略を積極活用することでさらなる成長を求める企業が多いが、一部の日本企業は買収一本槍で既存事業の低迷さらに不採算事業を簡単に整理できずグループ価値の毀損が進み、結果としてジャパニーズ・ディスカウントの状態になっている。

また、自社において複数の事業部が存在し、個別の業績管理単位としてそれぞれを経営しているのであればどんな企業もジャパニーズ・ディスカウントになるリスクを秘めている。前述のとおり、ジャパニーズ・ディスカウントの状態は3つに集約されるが、以下では、それぞれの点にフォーカスする形で、紐解いていきたい。

 

1:グローバル市場で急激に低下しているプレゼンス

日本市場の魅力度、日本の貧困国化という観点から今後も外資企業はそれほど優先度高く日本市場を攻めてはこないと予測している。しかしながら日本企業が本気で海外市場を成長ターゲットとして、グローバル・ビジネスの拡大を図るのであれば、このコングロマリット・ディスカウントおよびジャパニーズ・ディスカウントの状態に早急に対策を講じなければならない。

日本企業が従前強みとしてきた現場力が海外市場で通用しない、強みとして生かされていない。グローバルスケールでビジネスを合理化し各種業務効率化してきた筋肉質な海外企業と、日本という限定的な市場で戦ってきた日本企業では競争力に差が出るのは明らかである。

日本企業の全盛期はグローバルで成功したビジネスとしてもてはやされてきた。様々な海外企業が日本企業をベンチマークして、その競争力の源泉やマネジメントの特徴を分析し、さらには日本企業での従事経験のある人間からの情報で内情をつぶさに研究してきている。しかしながら彼らが蓋を開けて理解したのは、日本企業が秀逸だったのはビジネスを支える現場力であって、マネジメントやビジネスモデルの力ではなかった、そういった内情が露呈してしまったというのが実情ではないであろうか。

 

2:楽観的なビジネス予測と過去の成功体験に基づく時代にそぐわない戦略思考

グローバル市場に出て行けば、そこには前述のディスカウント課題に対し、2000年初頭から手を打っているエクセレント・カンパニーが競争相手として待っている。

皆さんが他社事例やベストプラクティスとして調査分析してきた企業群である。

この2020年以降、こういった企業もすさまじいスピードでBusiness Transformationと自己変革を続けている。未だに時速30㎞で走っている軽自動車(日本企業)が同じ道程を100㎞で走っている高級車(グローバル企業)を安易にベンチマークするべきではない。日本企業は運転する車ではなく、走るコースを変えなければならないのである。

日本企業の海外戦略を例に上げてみよう。伸びている市場だから参入しよう、事業計画で利益が出ている会社だから買収しよう。ほとんどが外部環境分析からの楽観的な戦略ストーリーであり、そこに自社の本質的な強みの議論はほとんど反映されていない。

いや、自社の強みの議論になったとたんに思考停止するのである。

加えて日本企業は過去の成功体験とベストプラクティスの呪縛からもう解放されなくてはならない。これまでの経営者は個人毎の成功体験と成功の法則をもっており、競争のプロトコルが既に現在変わって来ているのにもかかわらず、従前と同じ手法アプローチで戦略検討を実施し、下から上がってくる戦略戦術に重箱の隅をつつくような細かいレビューを行い、無駄に時間を費やしているのではないか。

 

3:本質的な課題を後回しにしたが故の競争力の低減

こういった日本企業の課題に対し提言したい。

IR目的で自社を魅力的に見せるお化粧だらけの実行できないような戦略検討に多大な労力と時間を費やすことから解放されよう。過去の成功体験やグローバル企業との比較ばかりでは何も生み出さない。

日本企業は、今そこにある重大課題、つまりこのコングロマリット・ディスカウントおよびジャパニーズ・ディスカウント課題に最優先かつ早急に取り組むべきであり、今この課題を後回しにすることで日本企業とグローバル企業の競争力の差異が広がりつつあることに早く気づくべきである。

では、これらディスカウント状態をどう乗り越えるのか?

この状態の課題の真因は、「際」の存在およびコングロマリット化による「際」の指数関数的な増大と捉えられる。数多くの経営コンサルティング会社や経営学の大家が経営を体系的に捉え、課題分析をすべきというフレームワークを提唱している。

ただしこういった個別の領域単位での課題について、全ての日本企業が日々それぞれ最大限の努力をして課題解決に尽力していることは間違いない。この絶え間ない改善活動は日本企業の血肉になり、すばらしい成果を上げている企業もあると思う。

近年のビジネスが事業面、地域面、機能面、全てにおいて複雑化している現場では、そのフレームワークで導出される課題が全てではない事によく気づかされる。

コンサルティングの現場では、特に「各ファンクションが有機的に連携していない」という機能間の課題が指摘される事が多いが、そこにヒントがある。

つまりコングロマリット・ディスカウントおよびジャパニーズ・ディスカウントに陥っている企業には上記フレームワークの各項目の間(際)にも連携課題があるのではないか、と考える。

その「際」に埋めようもない断絶もしくはギャップ広がっていることで、追加的な課題が生じ、さらに、これがコングロマリット経営になると「際」の課題が指数関数的に増えていくのではないか。

展開している事業の数だけ、地域の数だけ、機能の数だけ「際」の課題が生じる可能性があり、解決をしなくてはならない課題がエクスポネンシャルに増えるのである。
が故にコングロマリット経営は難易度が高い。

故にその無数にある「際」の存在に焦点を当て、それらの「際」をなくす、「際」を繋げる努力をすべきである。

膨大な時間を戦略検討に費やすのではなく、コングロマリット・ディスカウント、ジャパニーズ・ディスカウントの課題解決を優先し、「際」即ち「傷口」から止血する改革を優先すべきである。

 

(次回に続く)

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デロイト トーマツ グループはインダストリーに精通した経験豊富な専門家で編成するプロジェクトチームを有し、革新的かつ経済動向・経営環境に即した現実的な解決案の提案。企業の課題解決を支援します。

執筆者

野澤 英貴/Hideki Nozawa

野澤 英貴/Hideki Nozawa

デロイト トーマツ コンサルティング 執行役員

大手総合商社などを経て現職。重電、電機等の製造業をはじめ、ITなどの業界において、日系企業のクロスボーダー案件、グローバル経営改革・営業改革・デジタル改革等のグローバル・プロジェクトを多く展開。 AI/IoT領域の新規事業立ち上げ、M&Aプロジェクトの経験も豊富であり、戦略立案から組織設計はもちろんのこと、戦略がなかなか実行に移されない日系企業特有のボトルネックを解消する仕組み作りに近年は注力している。 当社松江英夫の著書『クロスボーダーM&A成功戦略』『ポストM&A 成功戦略』(ダイヤモンド社)に事例・知見の提供協力も行っている。 関連サービス ・ テクノロジー・メディア・通信(ナレッジ・サービス一覧はこちら) >> オンラインフォームよりお問い合わせ