Posted: 29 Jul. 2022 3 min. read

第五章 パーパスを起点にポートフォリオを変革する

【シリーズ】日本コングロマリット企業の未来へ向けて

執筆者 田中 晴基

第四章では、パーパスがバズワード化する今日において本質的に求められるパーパスは何か、そしてパーパスの持つ「大義」の力に着目した事業ポートフォリオ変革「Purpose Driven PX(Portfolio Transformation)」とはどのような考え方かを示した。

本項では、「Purpose Driven PX(Portfolio Transformation)」の具体的なアプローチを示す事で、コングロマリット・プレミアムを獲得する為の詳細な道筋について考察を深めたい。

 

パーパスを起点とした「戦略ストーリー」を描く

第四章でも触れた通り、パーパスをパーパス単体で検討しても本質的な変化には繋がらない。図1に示す通り、戦略ストーリーにおけるAspirationたるパーパスと、Where to playたる事業ポートフォリオ、How to winたる戦略・ビジネスモデルを一体として捉え、行きつ戻りつしながら紡ぎ上げていく視点が重要となる。

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長期変革に繋げる5つのステップ

上記のようなアプローチを念頭に、ここからはより具体的な検討ステップとして図2を示す。画一的な正解は無いが、モニター デロイトとして複数の企業と変革を共にした際に実際に用いたステップを体系的に整理している。一つの考え方として参照されたい。

 

Step1:注力すべき社会課題の特定

世の中に無数の社会課題が存在し、ともすれば総論的なパーパスやポートフォリオに陥りがちな中で、特に大義の源泉になるような重要課題を絞り込む事がまずは重要だ。コングロマリット企業は守備範囲が広い分、最初にいかに“的”を絞り込めるかがキーとなる。モニター デロイトでは社会課題の規模×自社ケイパビリティとのフィットの二軸で評価するが、類似のフレームで捉えられるマテリアリティを検討の起点とすることも一考だ。

 

Step2:パーパスの策定 (Aspiration)

重点課題を絞ったうえで、パーパスの検討に入る。Step2-4は、特に行きつ戻りつしながらの検討となる。
多くの企業がこぞってパーパスを掲げる中でいかに差別化するかがポイントだ。従い、重点課題の中で、今後ステークホルダーが中長期で企業に寄せる期待は何か、それらの期待に競合他社はどこまで応えられている/応えられていないか、自社が脈々と築いてきた機能的・情緒的な強みや特徴(=Reason to believe)は何か、を包括的に検討しながら、自社の大義を明らかにしていく。

 

Step3:事業ポートフォリオの検討 (Where to play)

パーパスを念頭に置きながら、重要課題を共通の視点で括る事で、事業ドメインの切り口が見えてくる。例えば、「持続可能な資源調達」や「リサイクル率の向上」等を含む「サーキュラーエコノミー」のような固まりだ。事業ドメインと言えばソリューションや国・エリアの切り口が一般的だが、このような社会課題解決を切り口とした定義が一部企業で見え始めている。「サーキュラエコノミーの実現」をテーマとした事業ドメインを置いた際に、既存事業が持つ新たな意味合いは何か、どのようなスケールの方向性が見出せるか、新規で捉え得る事業領域は何か、を検討しながら、ポートフォリオの将来像を固めていく。

 

Step4:事業ドメイン毎の戦略検討(How to win)

パーパスを置き、事業ドメインを再定義したうえで、これまでと同じ戦略・ビジネスモデルでは絵に描いた餅だ。それぞれの事業ドメインの中で、パーパス実現に向けたイノベーションを興し得る新たな戦略・ビジネスモデルを描く事が重要だ。ここでキーワードとなるのが「既存の打ち手の限界」だ。例えば「サーキュラーエコノミーの実現」というテーマの中で、今どのようなソリューションが最先端なのか、そしてその最先端のソリューションをもっても解き切れていない限界はどこにあるかを明らかにし、自社がそれを超えていく為にはどのような戦略・ビジネスモデルが必要なのかをバックキャストで検討していく。
これまでの延長線では目が向きづらかったチャレンジングな高みに、言わば“強制的に“視点を引き上げ、ストレッチした戦略やビジネスモデルに落とし込む。

 

Step5:全社長期戦略ストーリーの策定(Aspiration ~ How to win)

Step2-4までで検討してきたAspiration ~ How to winを改めて全体の戦略ストーリーとして紡ぎ、一連の整合性がとれているか、改めて差別化されたストーリーになっているかを検証しながら最終化する。

 

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いま、パーパスを作る事自体が目的化し、“パーパスが無かった昨日”と“パーパスがある今日”で何も変わらないという事が少なからず散見される。
文中でも言及したとおり、企業にとってパーパスは、ある意味で強制的に発想の時間軸を延ばし、視点を引き上げる指針であり、そうでないものはパーパスとは呼べない。そして何より、社会が企業に求めているのはパーパスではなく、パーパスの実現に向けた「変化」そのものである。
広範な事業を有し社会に対して大きな影響力を持つコングロマリット企業にこそ、このような変化を率先し、体現していく事が期待されているのではないだろうか。

執筆者

田中 晴基
デロイト トーマツ グループ シニアマネジャー

モニター デロイトのCSV Sustainabilityリーダーを務める。
多様なクライアント企業に対し、サステナビリティを基軸とした経営変革を支援。
特に気候変動や循環経済、アニマル・ウェルフェアなどをテーマとしたパーパスや長期ビジョン・戦略策定、既存事業変革、新規事業創出などに強みを持つ。
SDGsが問いかける経営の未来』など著書・寄稿多数。

※本ページの情報は掲載時点のものです。

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