Posted: 25 Apr. 2022 3 min. read

第三章 コングロマリットディスカウントと「際」への対処方法

【シリーズ】日本コングロマリット企業の未来へ向けて

日本製造業・ものづくりの衰退の危機感が高まっている。特にインフラ産業を中心としたコングロマリット企業(商品やサービスが異なる複数の事業を持つ企業)の地盤沈下が激しく、「サステナビリティ」や「デジタル化」に代表される競争環境の変化・社会変革の荒波の中で迷走しつつある。この連載では、日本コングロマリット企業を再生させるために、各エリアの専門家の視点から、様々なテーマを連載の形で掲載していきたい。

 

はじめに

前回、コングロマリット・ディスカウント、ジャパニーズ・ディスカウントの解消の為、日本企業は事業軸、地域軸、機能軸、無数に存在する「際」の課題から解決すべきとした。

一方でそういったコングロマリット企業に存在する「際」の課題に対し、グローバル企業はどのように対処してきたか、日立製作所、シーメンス、シュナイダー、GE、ソニー、パナソニックの6社をデロイトにて分析した。

その分析から導出される仮説としては、

『この不確実時代では売上維持は致し方ない。しかしながら経営変革をある一定の原理原則で強い意志で進めてきた企業が成功しているのではないか?』である

その原理原則は3つあると考えている。

1:体形を絞る
2:頭から足指の先まで神経を繋ぐ
3:とにかく動き続ける

 

1:体形を絞る

事業売却を徹底し、事業ポートフォリオをスリム化、最適化している
改革に聖域は決して設けてはならない。創業製品や過去の看板ビジネスに固執するがあまり、変革の聖域や特例があると社内に認知され、変革のモメンタムが削がれるリスクがある。


元シーメンスの島田太郎氏(現東芝社長)は著書「スケールフリーネットワーク」の中で
「シーメンスのCTOは『バリューチェーンを短縮しろ』とよく話をしている。バリューチェーンをそのままにデジタル化だけを進めても全員が苦しくなるだけだ」と述べている。
焼け太りの体で各種改革施策打っても効果は弱まってしまう。体を絞り筋肉質になってから、経営改革していくのである。
逆にスリム化する前に変革施策を発動している企業はまだまだ成果が出ていない。メタボな体に投薬を続けても効果は限定的である。
シーメンスに加え、日立製作所も経営変革にあたりグループ再編により多くの上場子会社を売却している。

 

2.頭から足指の先まで神経を繋ぐ

パーパス/ビジョンでシンプルかつ明確な方針・メッセージが出せていて、社内外のステークホルダーに浸透している
変革の旗頭の重要性はいうまでもないであろう。簡単なパーパスでも良い、入念な検討がなされたビジョンでも良い。10年~20年のスパンで企業が生き残る為のぶれない軸を持ち、全従業員の旗頭にすべきである。

ソニーのグループビジョン、日立のLumada、シーメンスのMindSphere、シュナイダーのEcoStruxure全て、グループの神経を繋ぐ極めて重要な基軸となっている。

 

3.とにかく動き続ける

変革をこの5年辛抱強く継続できている
変革を一過性の施策とすると大きな成果はでない。さらに社長が変わって自分の独自色を出そうと、前任の社長の変革施策の逆張りをすることも時間を無駄にするだけであろう。

改革プロジェクトはとにかく社内の抵抗勢力を改心させ、全社変革の大きなうねりにしていく事が重要である。シーメンスも日立製作所も2015年前後からデジタル変革を進めてきているが、シーメンスは2014年のソフトウェアカンパニー化宣言から構造改革に継続的に取り組み、日立製作所はスマートトランスフォーメーションの名の元、2010年から継続的にコスト構造を中心にした改革、および上場子会社の売却等の資本構造改革に取り組んでいる。

そういった企業がやっと5年後の近年となり、改革の成果の果実を享受しはじめている。

「際」を「傷」と言い換えてみると理解しやすい。
『体形を絞って』傷口の絶対数を減らし、グループ全体の『神経を繋ぐ』ことで、痛いと感じなくても出血しているような微細な傷を見つけ、さらに『いつも動き続ける』事で、感覚が研ぎ澄まされ、どこかに微細な傷口があっても敏感にわかるようになる。

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まとめ

上記3つの原理原則で変革を進めることのできている企業が、収益性の強化と新時代に備えたビジネスモデルの変革が徐々にできはじめていると考えられる。

体形を絞る、頭から足指の先まで神経を繋ぐ、とにかく動き続ける、これら全ての改革を推進していく際、

  • サステナビリティ
  • デジタル

が間違いなく今後のグループ経営の根幹になってくるであろう。

「体系を絞る」、即ち事業ポートフォリオの最適化を検討する際に、サステナビリティとデジタルの観点から「この事業はサステナビリティの観点から早めに撤退しておくべし」、「この事業はデジタルの活用により従前の強みが倍増する」といった議論していくことで、事業ポートフォリオの見直しの重要な尺度となるであろう。

また日本の製造業はこのデジタルの世界で生き残っていく生存競争に晒されており、「頭から足指の先まで神経を繋ぐ」事により、経営・事業の効率化、さらにはサプライチェーン、デマンドチェーン、全ての取引先を含めた情報を見える化し透明性を上げなければならない。特にScope3を含めたカーボンフットプリントの見える化、報告開示義務に対し、自社の複層にわたるサプライヤーネットワークの可視化ができていないと、想定外のリスク発生によるダメージを被る可能性も出てくる。 

そして最後に「とにかく動き続ける」である。
「際」の課題解決、さらにはサステナビリティとデジタルを経営基盤に当たり前のものとして組み込んでいく改革は一朝一夕にできるものではない。

近年に経営改革の成果を上げ始めているグローバル企業は、2014年から2016年の間にどこもデジタルシフトに大きく舵を切っている。5年から10年のタイムフレームで改革を進め、ここまで来ているのである。

コングロマリット・ディスカウント、ジャパニーズ・ディスカウントからの逆襲は、これまでの失われた20年のリターンマッチになる為、単年度の短期的改革ではこれまでのビハインドを取り返し、スタート地点に戻れる事が関の山であろう。

経営トップにはこのビジネス世界の急激な変化の荒波に5年~10年の大計で立ち向かう気力と胆力があるか問われている。

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デロイト トーマツ グループはインダストリーに精通した経験豊富な専門家で編成するプロジェクトチームを有し、革新的かつ経済動向・経営環境に即した現実的な解決案の提案。企業の課題解決を支援します。

執筆者

野澤 英貴/Hideki Nozawa

野澤 英貴/Hideki Nozawa

デロイト トーマツ コンサルティング 執行役員

大手総合商社などを経て現職。重電、電機等の製造業をはじめ、ITなどの業界において、クロスボーダー案件、グローバル経営・営業改革等のグローバル・プロジェクトを多く展開。 AI/IoT領域の新規事業立ち上げ、組織再編、M&Aプロジェクトの経験も豊富であり、戦略立案から組織設計はもちろんのこと、戦略がなかなか実行に移されない日系企業特有のボトルネックを解消する仕組み作りに近年は注力している。 2022年9月東洋経済新報社より『ジャパニーズ・ディスカウントからの復活』を出版し、多事業多地域展開する企業に対する経営改革のアプローチを提言している。 Deloitte Asia PacificのIndustrial Products & Constructionsセクターのリーダーも兼任している。 関連サービス ・ 産業機械・建設(ナレッジ・サービス一覧はこちら) >> オンラインフォームよりお問い合わせ