Posted: 31 May 2022 3 min. read

第四章 パーパスを問い直す

【シリーズ】日本コングロマリット企業の未来へ向けて

執筆者 田中 晴基

第三章では、コングロマリット企業に存在する「際」の課題に対処する経営変革の原理原則として「1.体形を絞る」、「2.頭から足指の先まで神経を繋ぐ」、「3.とにかく動き続ける」の3点を示し、特に2.では変革の旗頭たるパーパスの重要性を説いた。

本項では、パーパスの持つ「大義」の力に着目した事業ポートフォリオ変革「Purpose Driven PX(Portfolio Transformation)」の要諦に触れ、中長期でコングロマリット・プレミアムを生み出していくヒントを探る。

 

そのパーパスに「大義力」はあるか?

ある種の“バズワード”としてパーパスが拡がっている今だからこそ、あえてパーパスとは何か?を最初に論じておきたい。

パーパスとは企業の社会的な存在意義、言うなれば「大義」だ。即ち、そのメッセージは所謂長期ビジョンのような目指したい自社像ではなく、長期で実現すべき社会像を想起させる必要がある。成り行きでは到底至る事の出来ない挑戦的な社会像を掲げるからこそ、足元の戦略の視座を引き上げるのであり、ステークホルダからの熱狂・共感を呼び込むのだ。

一方で、世の中でパーパスと呼ばれるものに目を向けると、上記に合致するものは実はごく一部だ。特に複数の事業を持つコングロマリット企業であるほどパーパスは抽象的・総花的になり、社名を隠せばどの企業のパーパスか見分けが付かない状況に陥りがちだ。また、グローバル先進企業においても「パーパスを戦略に組み込んでいる」と回答する企業は約1割と言われており、“飾り”としてのパーパスに終始してしまっている現状も見て取れる。

真に「大義力」の伴うパーパスを掲げることが、本章の「はじめに」で示した日本コングロマリット企業が地盤沈下を起こしている3つの要因(①楽観的な未来を期待する傾向、②先が曖昧で見えない状況に対し、自らチャレンジし産業構造そのものを変えていく気概を組織の中で潰してしまう傾向、③諦めの早さ)を超え、コングロマリット・プレミアムへの転換を図るきっかけになると筆者は考える。

 

パーパスを起点とした事業ポートフォリオ変革(Purpose Driven PX)をいかに描くか

パーパスは作って終わりではない、むしろ作ってからが勝負だ。さらに言えば、パーパスをパーパス単体で考えてはいけない、というのが筆者の視点だ。

企業の戦略ストーリーにおけるAspirationたるパーパス、Where to playたる事業ポートフォリオ、How to winたるCSV戦略の3要素を一体として捉え、行きつ戻りつの検討の中で一連のストーリーとして紡ぎ上げることで、はじめてパーパスが経営に浸透する。

コングロマリット企業では、言わずもがな事業ポートフォリオの将来像をいかに描くかが肝となるが、ここで参考にしたいのは、昨今顧客セグメントやソリューションの切り口で定義されていた事業ドメインに、新たに社会課題解決の切り口を加味する動きが出てきている点だ。パーパスの実現に向け、特に解決が必要な社会課題に注目し、「脱炭素事業領域」や「サーキュラーエコノミー事業領域」といった事業ドメインへ「リフレーミング」するイメージだ。

例えば、国内でITを軸に広範な複数事業を展開するある企業は、従来の業界担当縦割りの事業ドメインでは得られない事業シナジーを生み出すために、「循環型社会」や「情報セキュリティ」といった社会課題を軸とした事業ドメインにリフレーミングを進めている。一例を挙げれば、「循環型社会」事業ドメインの下、これまでサイロ化し確たる成長戦略を見出せなかったインフラメンテナンス、ロジスティクス、在庫管理などの個別事業が所謂静脈物流までを含む循環をなぞる形で結合され、新たな価値創出・競争力強化に繋がっていくイメージだ。

パーパスを大上段に、各事業が長期で目指す共通の社会像でリフレーミングし新たなシナジー創出の視点を得る事が、コングロマリット・プレミアムの創出に向けた一つの足掛かりになるのではないだろうか。

 

足元にパーパスの本質を問い、コングロマリット企業としての未来を拓く

最後に、ある日本を代表するエレクトロニクス系コングロマリット企業での一幕を紹介したい。

長年培った技術力を梃子に、広範なソリューションをグローバルに展開する同社は、スマートシティーに関連する事業で欧米企業に負け続ける日々に危機感を抱いていた。「個別の製品や技術を売る我々に対して、欧米の競合他社はパーパス(社会像)を売る」「1事業で戦う我々に対して、彼らはエコシステムで“面”の戦いを仕掛ける」――では、なぜ自社はそれができないのか。突き詰めた先にあったもの、それがパーパスであった。幾度となく“高尚な”パーパスを模索しては形骸化を繰り返したこの企業が、本質的かつ内在的な動機の下にパーパスを渇望し、動きだした瞬間であった。

パーパスブームの世の中に同調し、耳に心地良いパーパスを創ることは、実は難しくない。あえて足元に問うこと。これこそがパーパスの本質であり、コングロマリット企業としての未来を拓くうえでの挑戦にもなり得るだろう。

執筆者

田中 晴基
デロイト トーマツ グループ シニアマネジャー

モニター デロイトのCSV Sustainabilityリーダーを務める。
多様なクライアント企業に対し、サステナビリティを基軸とした経営変革を支援。
特に気候変動や循環経済、アニマル・ウェルフェアなどをテーマとしたパーパスや長期ビジョン・戦略策定、既存事業変革、新規事業創出などに強みを持つ。
SDGsが問いかける経営の未来』など著書・寄稿多数。

※本ページの情報は掲載時点のものです。

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